バーテンダーは「聞き役」 栄通り「バー サンガ」編 「夜の駆け込み寺」のような店に 

バーテンダーは「聞き役」 栄通り「バー サンガ」編 「夜の駆け込み寺」のような店に 

熊本のバー探訪

熊本市のバーテンダーたちの「ちょっといい話、クスッとする話」を、それにまつわるお酒とともに紹介する「熊本のバー探訪」シリーズ。今回は「バー サンガ」(熊本市中央区下通 栄通り)のオーナー嵯峨正信さん(37)に登場してもらいます。

「バー サンガ」のオーナー嵯峨正信さん

「バー サンガ」のオーナー嵯峨正信さん=2019年11月5日、熊本市中央区下通

このコンテンツは、熊本日日新聞夕刊で連載した「夜話(やわ)カクテル」(2015年3月~2017年6月)を再構成し、インタビューや店舗情報などを加えました。

(記事中の情報は掲載時点、後段の店舗情報は2019年11月5日時点です。変更されている場合がありますので、来店前に電話でご確認ください)

シーブリーズ】 グラスの持ち方で格好よく

シーブリーズ

バーのお客さまは40代以上が多いのですが、数カ月前に珍しく20代男性2人が来店されました。2人は「社会人になったので、格好つけたい」と、街なかのバーに初めて来たということでした。

そこで、若い2人に似合う「シーブリーズ」を出しました。ウオツカとグレープフルーツジュース、赤いクランベリージュースをシェイクするさっぱりした爽やかなカクテルです。

本来はロックグラスで出すのですが、あえて脚のあるカクテルグラスを使いました。グラスの持ち方は、「格好つける」上で重要だからです。

2人は、ステム(脚の棒部分)を不安定に握ってこぼしそうになったり、酒の入った部分を持ったりして試行錯誤。見かねて「親指と人さし指でステムを持ち、ほかの指はフット(下のプレート部分)に添えるといいよ」とアドバイス。2人は「また、格好つけ方教えてください」と、満足そうに帰っていかれました。

(2015年10月6日掲載)

【ウイスキーサワー】 父のもう一つの顔

ウイスキーサワー

私の実家はお寺なんです。それに父親は大学の研究者でした。お堅い家庭環境で育った真面目な性格の父親が、バーテンダーという「夜の仕事」を許してくれるはずがありません。

この仕事に就いた時は当然反対。それでも私は、「いつか分かってくれるだろう」と、バーでの修業を続けていました。父親は「そのうち辞めるだろう」と思っていたらしく、実家に帰った際も私の仕事の話はせず、無視していました。

ところが、修業を始めて3年たったころ、父親がひょっこり店に来たのです。注文は「ウイスキーサワー」。レモンジュースと砂糖を使うため、ウイスキーカクテルにしては珍しい甘酸っぱい味。知る人ぞ知る昔ながらのカクテルです。若いころバーに通っていたことがうかがわれ、父親のもう一つの顔が見えたのと同時に、「この道で生きていってもいいよ」と、父親に認めてもらった気がしました。

(2015年10月20日掲載)

スコッチキルト】 苦味の中にほんのり甘さ

スコッチキルト

最後にバーテンダーの先輩の店で出会った40代後半の男性の話をしたいと思います。

その男性は、私が客として店へ行った際、カウンターの隣同士になったのが縁で親しくなりました。いつもスーツ姿で話し掛けにくい雰囲気なんですが、実はとても優しい方なんです。

ある時、私がカウンターでたばこを吸うため使い捨てライターを使っていると、男性が「君はバーテンダーなんでしょ。これ使いなよ」と言って、自分のジッポーライターをくれました。バーテンダーが安いライターを使っているようでは、それに見合った客しか来ない。「自覚を持て」と、言外にたしなめられているような気がしました。

男性は私の店に来店された時、年下の私に対して丁寧な言葉遣いで、店主としての立場を配慮してくれます。よく注文されるのはウイスキーベースの「スコッチキルト」。ハーブ系のリキュールとオレンジビターズが入っている苦味の中にほんのり甘さを感じる、その男性のようなカクテルです。

(2015年10月27日掲載)

嵯峨さんにインタビュー

「バー サンガ」をお伺いして、嵯峨正信さんにお話を聞きました。(2019年11月5日)

アフリカ産の広葉樹「ブビンガ」の一枚板でできたカウンターが客を出迎える「バー サンガ」の店内

「バー サンガ」はビルの3階。ビルの外にあった看板を見つけてエレベーターで上がりましたが、一見しただけでは店の看板がどこにあるか分かりません。よく見ると、大きく開いたドアから3メートルほど奥にもう一つのドア。一つ目のドアから入り、石畳を進むと、途中に小さな「Bar Samgha」のプレートがありました。

ビルの3階にある「バー サンガ」の入り口。3メートルほどの石畳を歩いて店内に入る。左手に「Bar Samgha」の小さなプレートがある

――ユニークな入り口ですね。

嵯峨さん お客さんからは「高級感があるね」と言っていただきますが、実を言うと、私一人できちんと接客できる程度の広さにしたかったから、あえて入り口の奥にさらに入り口を作って、店を狭くしたんです。今はカウンターが10席と、4~6人掛けのテーブル席が一つ。このくらいが話しやすくていいですね。石畳の途中には、お客さまが撮影した阿蘇の田園風景や、有明海の夕日の写真を飾っています。

――店名の「サンガ」は。

嵯峨さん サンガ(Samgha)は仏教用語で、漢字で書くと「僧伽」です。サンスクリット語で「仲間」や「集まり」「群れ」を意味します。私の実家はお寺で、私も僧侶の資格を持っていますので、仏教用語から取ったわけです。サッカーJ2の「京都サンガ」も同じ言葉が由来です。いろんな人が集う場にしたい、という思いも込めています。

シェイカーを振る嵯峨さん

――人気のお酒は。

嵯峨さん お客さまの半分はウイスキーを召し上がります。スコッチやバーボンなど。ストレートのほか、ソーダ割りなども人気です。店にある約400種類のお酒のうち、約半分がウイスキー。客層は男性が8割。女性は一人でお酒を楽しみたい、という方が多いですね。関東や関西から、出張のたびに来てくださる方もいます。カクテルで人気なのはジントニック。マティーニやシャンパンカクテルもよく出ます。これから寒くなると、ホットウイスキーなどもおいしいですよ。

カクテル「シーブリーズ」をグラスに注ぐ嵯峨さん

――目指すお店の姿は。

嵯峨さん お客さまはお酒を楽しみに来られますので、いつも楽しい話を心掛けています。中には自身の思いや悩みを打ち明けられる方も。どんな時もバーテンダーは「聞き役」として、お客さまの気持ちを受け止めるのが仕事だと思っています。どこかお寺の役割に似た所がありますね。「夜の駆け込み寺」のような店を目指していきたいと思っています。

「バー サンガ」店舗情報

住所 熊本市中央区下通1丁目9-29 森天会館3階(栄通り)

アクセス 熊本市電「花畑町」電停から徒歩4分
営業時間 19時~27時
定休日 日曜日(祝日前は営業)
電話 096-356-3366
システム カクテル、ウイスキー1000円~、チャージ料金700円(いずれも税込)
CATEGORIES
TAGS