「獣害と本気で向き合いたい」 就職内定蹴り千葉から移住 「ジビエファーム」施設長・井上拓哉さん

「獣害と本気で向き合いたい」 就職内定蹴り千葉から移住 「ジビエファーム」施設長・井上拓哉さん

【令和に咲く】新時代担う若者に同世代の記者がインタビュー

井上拓哉さん

解体施設「ジビエファーム」の落成式で、作業着姿で謝辞を述べる井上拓哉さん=熊本県宇城市

熊本日日新聞社の「平成生まれ」の記者たちが、IT業界やアート、音楽など、さまざまな分野で挑戦を続ける、熊本県出身や在住の同世代の若者を取り上げる連載「令和に咲く」。

今回は、「ジビエファーム」(熊本県宇城市)施設長の井上拓哉さん(24)を取材しました。記事は運動部の東誉晃記者(23)、写真は宇土支局の西國祥太記者(29)が担当しました。

「自分たちで地域農業守る」 若手でつくる「農家ハンター」に加入

イノシシ

「くまもと☆農家ハンター」が仕掛けた箱わなに捕らえられたイノシシ(井上拓哉さん提供)

「自分たちで地域農業を守る-。その本気度に心を打たれた」。井上拓哉さんは3月、生まれ育った千葉県野田市から宇城市三角町の戸馳島に移住し、島を拠点に活動する「クマモト☆農家ハンター」に加わった。

「クマモト☆-」はイノシシによる農作物被害を減らそうと、110人ほどの県内の若手農家でつくる。いわば消防団のような自衛組織だ。情報通信技術(ICT)を活用して地域外の人々と連携し、箱わなを使った駆除に取り組む。

実習で知った獣害被害の深刻化

井上拓哉さん

山中に仕掛けた箱わなの前で話す井上拓哉さん(右)と東誉晃記者=熊本県宇城市

学生時代の現場実習で、小規模農家を中心に獣害被害が深刻化している実情を知った。そこで狩猟免許を取得した。だが、地元の猟友会はほとんど活動していなかった。「まずは地域の仕組みから変えなければいけない」と考えていた時、農家ハンターの活動を知った。

当時、大学3年生。「自分がやりたいことを彼らが具体化していた。自分が銃を買うより、お金を有効に活用してくれると思った」。狩猟用の銃を買うためにアルバイトでためた10万円を、「クマモト☆-」が箱わなの購入費を募るために開設したクラウドファンディングに寄付した。

そして、心を固めた。「安泰な道ばかり選んできた人生を卒業したい。獣害と本気で向き合いたい」。民間企業の内定を蹴り、戸馳島での生活を選んだ。

駆除に葛藤も、獣害解決の糸口探り奮闘の日々

概念図

駆除したイノシシを無駄のないサイクルに組み込んだジビエファームの取り組みの概念図

自身は農家でない。イノシシの駆除には葛藤する。「被害を受けていない自分が命を奪っていいのか」-。それでも、この活動を全国に広げて獣害をなくしたいと思う。「地域自らが取り組む戸馳なら解決の糸口が見えるかも。まずはここで経験を積みたい」と奮闘の日々を送る。

今月中旬から本格稼働する「ジビエファーム」の施設長に就いた。食肉加工だけでなく、皮で小物を作り、骨や赤身はペットフードや堆肥に回すなど捕獲したイノシシを余すことなく使い切りたいと試行錯誤する。

ジビエ☆ファーム

井上さんが施設長を務める解体施設「ジビエファーム」

「捕獲され、埋められて終わりだったイノシシたちを弔うためにも、無駄のないサイクルを確立したい」。手腕が試されるのはこれからだ。

(2019年11月8日付熊本日日新聞朝刊掲載)

井上拓哉(いのうえ・たくや) 略歴

井上拓哉さん

「将来への不安もあるけれど、楽しみの方が大きい」と笑顔の井上拓哉さん。よく釣りをするという自宅近くの港で

1995(平成7)年10月生まれ。東京農大短大を経て東農大卒。捕獲したイノシシを加工し、販売する株式会社イノP社員。ジビエファーム運営のため、新たなクラウドファンディングを開設した。

【井上さんが開設したクラウドファンディングはこちら】

〈取材を終えて〉 奮闘する姿、勇気もらう

井上拓哉さん(右)とメモを取る東誉晃記者

身ぶりを交えながら話す井上さん(右)とメモを取る東誉晃記者

屈託のない笑顔に引き込まれ、話が尽きなかった。「実は、石橋をたたいて渡る性格なんです。たたき過ぎるくらい」と笑う。都会を離れ移住を決断したが、正しい選択だったか何度も思い悩んだという。記者も社会人1年目で、同じく心配性。日々、手探りと失敗の繰り返しだが、同世代の奮闘する姿に勇気をもらった。(東誉晃)

CATEGORIES
TAGS