熊本市島崎の熊本県酒造研究所 〝お酒の神様〟野白金一氏発見の酵母、全国の蔵元へ

熊本市島崎の熊本県酒造研究所 〝お酒の神様〟野白金一氏発見の酵母、全国の蔵元へ

ぶらり新町・古町

熊本市の新町・古町をさるく。町屋があり、歴史的な橋がある。履物店をのぞき、写真館を見てはいにしえの町並みを想像する。横浜からの単身赴任者には、物珍しいことばかり。きょうもぶらぶらと、そぞろ歩きを始めた。

「熊本酵母」や「香露」で有名な酒造研究所

熊本県酒造研究所

段山ほとりにある熊本県酒造研究所=熊本市中央区島崎

清酒造りに重宝される「熊本酵母」や清酒ブランド「香露」で有名な熊本県酒造研究所(熊本市中央区島崎)は、阿蘇からの地下水が流れ着く段山のほとりにある。この地に拠点を構えてやがて100年。野白金一氏(1876-1964年)が分離・培養した酵母は全国の清酒メーカーが活用している。

「お酒の神様」ともあがめられる野白氏の命日の昨年10月22日。長崎次郎書店喫茶室(中央区新町)で「野白金一先生ファンの集い」が開かれた。黙とう後に、野白氏の輝かしい業績が紹介された。

1952年にみつけた酵母(熊本酵母)は日本醸造協会の「きょうかい9号酵母」として全国に配られる。発酵力が強く、上品な香りと味がある。

もともと熊本ではお酒と言えば「赤酒」だった。島根県生まれの野白氏は1903年に熊本税務監督局鑑定部に赴任。巡回指導などで当地の清酒造りを支援した。

熊本酒造組合(県酒造人組合)が設立した「熊本県酒造研究所」(当時の所在地は川尻町)が株式会社化された翌年の1919年、初代技師長に就任した野白氏は、熊本の風土に合った酒造りを目指す。1953年に熊本酵母を分離・培養、1968年に全国の蔵元への配布が始まったことで、その名は全国に広まった。

熊本の良質な水がおいしいお酒の源

おいしい日本酒造りには「YK35」という言葉があるそうだ。山田錦の「Y」、熊本酵母の「K」、精米歩合を35%まで磨くという意味だ。

集いで知り合った高浜圭誠研究室主任の計らいで、研究所の見学ができた。

ビール中瓶ほどの瓶にカラメル色の培養液が入っている。振ると元気よくガスがわき出る。300CCの液体に300億もの酵母が入っているという。

熊本酵母

出荷を待つ熊本酵母

森川智製造部長は「生きのいい酵母を清酒メーカーにお届けするよう、準備しています」と話す。

培養液にするまでは、膨大な数の酵母から良質なものを選ぶ作業を丹念に続ける。

熊本のお酒のおいしさは、良質な水と密接に関わっている。阿蘇に降り注いだ雨がゆっくりと地下を通って熊本市などに至る。加藤清正の治水・利水事業のおかげだ。研究所内の井戸は地下120メートルあり、ポンプでくみ上げる。研究所では、この酵母を使って「香露」を生産している。

段仕込みの作業を見学

昨年の12月初旬。100年前にできた酒蔵で、段仕込みの作業が本格化した。「最低気温が5度くらいで、ちょうどいい季節になりました」と森川さん。こうじ、蒸し米、水を入れる作業を繰り返す。1日目を「添」(そえ)、2日目を「踊」(おどり)、3日目を「仲」(なか)、4日目を「留」(とめ)という。踊の2日目は、酵母を増やす日だ。

しっかり蒸した米を送風機でホーロー容器に送る。水、こうじ、蒸し米を櫂棒(かいぼう)で混ぜる。日本酒の甘いにおいが広がる。約20日後に搾って、さらに半年ほどねかせて、市場に出していく。

酒蔵の2階では酒母(段仕込み前に蒸し米にこうじを加えて発酵させた状態)を見ることができた。青リンゴの香りがした。段仕込みで使うこうじを口にしたら、香ばしく体に力がみなぎってくるような気がした。

別の建物では、高浜さんが出荷用の熊本酵母作りに精を出していた。「培地に酵母を植えています」と高浜さん。水と米でできた糖液に酵母を入れて22度で2日間、恒温器に置く。高浜さんはピペットで手際よく作業を進めていた。

培地に酵母を加える

培地に酵母を加える

香露の特別純米酒を味わう 季節感を感じながらの日本酒は格別

香露の特別純米酒を船場町の老舗郷土料理「梅鉢」で味わう。おでんに合う

船場町の老舗郷土料理「梅鉢」に香露の特別純米を持ち込んで味わった。甘みが強い。店主の長内正一さんが、このお酒に合うのではないかと梨の酢漬けを出してくれた。荒尾産の梨で、酒とさかなの地産地消を楽しんだ。

香露のパンフレットでは、特別純米酒のお薦めの飲み方は「お燗・常温」となっているが、冷やでも飲みやすかった。

常連客からは「甘いので女性向けかな」といった声も。長内さんは「舌に甘みがかなり残るので、のどで味わう方がむいている」と評価。確かに、シェリー「ティオペペ」のように食前酒にして、しゃれたグラスでぐっと飲むのもいいかもしれない。

別の機会には、ゆる燗につけてもらった。森川さんのお薦めもあって、おでんを食べながら味わう。確かに、鰹だし、昆布だしと合うようだ。こんにゃく、卵、すじ肉と食が進む。外は一気に冷えたが、温まった。季節感を感じながらの日本酒は格別だ。

「お酒の神様」と「治水・利水の神様」の2人の神様に感謝しつつ、熊本談議に花が咲き、夜は更けた。

熊本県酒造研究所

住所 熊本市中央区島崎1-7-20

アクセス 熊本市電「段山町」電停より徒歩4分
電話 096-352-4921
公式HP http://www.kumamoto-sake.com/intro/kuramoto01.html

※情報は2020年1月6日時点です。

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