正代、感動をありがとう‼ 熊本県民悲願の幕内優勝 紙面で振り返る秋場所の熱闘

正代、感動をありがとう‼ 熊本県民悲願の幕内優勝 紙面で振り返る秋場所の熱闘

2020年の大相撲秋場所(9月13~27日、東京・両国国技館)は、関脇正代関(28)=本名正代直也、熊本県宇土市出身、時津風部屋=が13勝2敗で優勝し、初の賜杯を手にしました。1909(明治42)年に優勝制度が確立した後、熊本県出身力士の幕内優勝はなく、歴史的偉業を果たしました。大関昇進も確実にしています。年6場所制になった58年以降、県出身の大関は、牛深市(現天草市)出身の栃光(故人)以来2人目となります。

秋場所で初優勝を果たし、賜杯を手に笑顔の正代=2020年9月27日、両国国技館(代表撮影)

正代関は熊本農高から東京農大に進学し、2年生の2011年に学生横綱のタイトルを獲得。14年に角界入りし、16年初場所で新入幕を果たしました。ただ「大器」と評されながらも、大関レースで他の力士に追い越されるなど伸び悩んだ時期も。今年に入って初場所、7月場所で優勝争いを演じましたが、いずれも苦杯。今回「三度目の正直」で、県民悲願の初優勝を果たしました。そして念願の大関の座も手中に。千秋楽、相撲人生を左右する大一番を見事制した後、正代関が花道で付け人と肩を組んで喜び合い、涙を流す光景に胸を打たれた人も多かったでしょう。

 

この秋場所、熊本日日新聞は連日、正代の活躍を大きく報道しました。取組結果を報じた計14日の紙面のうち(1日は休刊日)、正代関が一番大きな扱い(トップ)だった日は実に12日。この紙面を基に、県民や相撲ファンを熱狂させた全取組を振り返ります。

1面、運動面、社会面で熊本県内初の幕内優勝を果たした正代の快挙を大きく取り上げた9月28日付の熊本日日新聞朝刊

※情報は2020年9月28日現在。記事中の情報は掲載時点。以降の記事中、力士名は敬称略

○危なげなく隆の勝を押し出し、出足順調(初日)

正代は隆の勝を危なげなく押し出し、初日を白星で飾った。白鵬と鶴竜は休場で、複数の横綱全員が初日から不在となるのは1983年夏場所の千代の富士、北の湖以来37年ぶり。

○苦手の玉鷲に快勝 「体の動きいい」と自信(2日目)

正代が、過去4勝9敗と苦手にしていた玉鷲に快勝。立ち合いで先に手をついた相手を胸で受け止めて、巧みに浅いもろ差しに成功。おっつけられても出足を緩めず一気に押し出した。当たった後の2歩目、3歩目をしっかりと出して2連勝し「体の動きもいい。15日間自分の相撲を取れれば」と自信を示した。

9月15日付掲載の紙面

○小結・遠藤を土俵下まで吹っ飛ばす(3日目)

正代が馬力あふれる出足で難敵の小結・遠藤を退け、三役以上で唯一の初日から3連勝。勝機を逃さなかった正代。当たってすぐに右をのぞかせ、遠藤の左巻き替えに乗じて前進。土俵際で粘る相手に腹を突き出して寄り立てる。最後は力強く押して、土俵下まで吹っ飛ばした。正代は「自分の相撲を取りきることに集中している」と納得の表情だった。

9月16日付掲載の紙面

●照ノ富士の突きに押し出され、初黒星(4日目)

三役以上でただ一人、3連勝だった正代に土がついた。先場所優勝した照ノ富士の気迫あふれる突き、押しに後退。相手十分の右四つでつかまり、抵抗むなしく押し出された。

9月17日付掲載の紙面

○迫力ある出足、北勝富士に完勝(5日目)

正代は前日の初黒星の影響を感じさせなかった。北勝富士の右喉輪をものともせず、迫力ある出足であっという間に押し出した。「(負けを)振り返らないで、前に出る圧力を意識した」と好内容にうなずいた。

9月18日付掲載の紙面

○栃ノ心を寄り切り、1敗守る(6日目)

正代は栃ノ心を寄り切って5勝1敗とした。平幕阿武咲が千代大龍に敗れて全勝がいなくなった。1敗は貴景勝、正代のほか、新入幕の翔猿ら計6人に。

●小結・隠岐の海に敗れ2敗目(7日目)

正代はベテランの小結隠岐の海に突き落とされ2敗に後退した。正代は「もろ差しの入りが浅かった」と一気に勝負を決められなかったことを反省。落胆しつつも「この負けを引きずらないように」と気持ちを切り替えた。

9月20日付掲載の紙面

○妙義龍下し6勝目 2敗に9人並ぶ大混戦(8日目)

正代は妙義龍を送り出して6勝2敗。大関貴景勝は栃ノ心の変化ではたき込まれ、2敗目を喫した。1敗は消え、2敗で9人が並ぶ大混戦。

9月21日付掲載の紙面

○大栄翔との関脇対決、取り直しの末制す(9日目)

正代は大栄翔との関脇対決を取り直しの末に突き落としで制して7勝2敗に。最初の一番は大栄翔の突き、押しにたまらず後退。土俵際で何とか残りながら右で突き落とし、軍配を受けたが物言いがついた。取り直しの一番も喉輪に顎が上がる。ここから懸命に左を差して組み止めて突き落とし。「土俵際で気持ちが切れなかった。無我夢中。がむしゃらに残そうとした結果」と2敗トップを保って胸を張った。この一番で、正代は通算500回出場を連続出場で記録。

9月22日付掲載の紙面

○くせ者照強を寄り切って勝ち越し(10日目)

正代は、くせ者の照強を危なげなく寄り切って勝ち越しを決めた。「とりあえず勝ち越して余裕が出てきた」と淡々と語った。2敗で貴景勝、正代と若隆景、阿武咲、新入幕の翔猿が並んだ。10日目でトップ5人は昨年秋場所以来。正代は「単に成績が良い5人中の1人という意識しかない。次の目標は2桁勝利」と冷静だった。

9月23日付掲載の紙面

○前に前に 元大関・高安押し倒す(11日目)

正代は元大関の高安を押し倒して9勝2敗。高安の突き、押しを、安定した下半身で受け止めた。冷静に押し返すと、たまらず相手は膝から崩れるように倒れた。正代は「前に前に出ようと思った。勢いが伝わった」と納得の表情だった。2敗は貴景勝、正代に平幕の若隆景、翔猿の計4人。1差で朝乃山、照ノ富士、阿武咲の3人が追う展開に。

9月24日付掲載の紙面

○宝富士を寄り切り、2場所連続2桁勝利(12日目)

正代は一気の出足で平幕宝富士を寄り切り、2敗をキープ。2場所続けての2桁勝利に「こんなに早く2桁を勝てるとは想像していなかった」と謙遜した。大関貴景勝は小結遠藤の休場による不戦勝で10勝2敗とし、首位を守った。平幕の2敗同士の対戦は、新入幕の翔猿が若隆景をはたき込んだ。2敗は貴景勝、正代、翔猿。1差で朝乃山、若隆景、阿武咲の3人が追う展開に。

9月25日付掲載の紙面

○強か‼ 大関・貴景勝を突き落とし、貴重な1勝(13日目)

2敗同士の対戦で正代が大関貴景勝を突き落としで破った。格上を倒し、混戦の賜杯争いでトップを死守。初優勝へ一歩前進する貴重な1勝を手にした。「とりあえずいい感じ。イメージ(通り)のような相撲。自分から攻められる感覚はあった」と自賛した。

9月26日付掲載の紙面

過去の対戦成績は4勝7敗。それでも直近で2連勝中と苦手意識はなかった。「先に踏み込みたかった」と大関より早く手をつき、鋭い当たりを胸で受け止めた。前傾姿勢を保ち、強烈な突き、押しを下からあてがってしのいだ。いなしを交えて揺さぶり、最後は相手の足がそろったところを逃さずに突き落とした。新入幕の翔猿は隆の勝を送り出して11勝目を挙げ、正代とトップに並んだ。

○朝乃山を豪快に押し倒し 大関連破し単独トップ(14日目)

正代が大関朝乃山を豪快に押し倒し、12勝目を挙げて単独トップに立った。朝乃山を強烈なかち上げで横向きにさせた。右差しを封じ、左上手を取って追撃。右で大関の胸を押し、土俵下まで押し倒した。最高の相撲を取り切った正代は「踏み込めた。素直にうれしかった」と完勝の余韻に浸った。八角理事長(元横綱北勝海)は「今日の勝ち方が素晴らしい。普段とは違う気がする」と称えた。

9月27日付掲載の紙面

2敗で首位に並んでいた新入幕の翔猿は大関貴景勝にはたき込まれ、ともに11勝3敗。賜杯の行方は2敗の正代と1差の2人に絞られた。千秋楽で正代が翔猿を下せばそのまま優勝。翔猿が勝てば優勝決定戦にもつれ込み、さらに結びで貴景勝が朝乃山を破れば、3人によるともえ戦となる。

○「無我夢中」の突き落とし、翔猿破り初V(千秋楽)

勝てば優勝が決まる翔猿との大一番。初顔合わせでやりづらさも感じていたという正代。立ち遅れて後退。逆襲に転じるが、いなされてもろ差しを許す。土俵際まで詰められたが、体の柔らかさを生かして起死回生の右突き落としを決めた。正代は「最後まで諦めなかったのが良かった。無我夢中だった」と興奮を隠せなかった。

優勝を決めた大一番の様子を報じた9月28日付掲載のスポーツ面

初優勝を果たし、土俵を下りて目を閉じる正代の写真などを掲載した9月28日付掲載のスポーツ面。右側には「正代の歩み」と題して、小学生、高校、大学生時代の写真や主な戦績をまとめている

歓喜の宇土市民、祝いの花火も

正代が歴史的な勝利を決めた瞬間、故郷宇土市の市民体育館ecowin宇土アリーナのパブリックビューイング会場に地鳴りが響いた。応援グッズを身に着けた後援会メンバーやまわし姿の相撲少年ら200人余りは、県出身力士初の快挙を大喜びした。

正代が会場の大画面に姿を現すと、ボルテージも最高潮に。行司の軍配が返り、激しく動き回る翔猿に土俵際に追い込まれると、悲鳴が上がった。だが、しぶとく回り込んで難敵を突き落とした瞬間、歓喜に変わった。

正代が初優勝を決め、歓喜に包まれるパブリックビューイング会場。手前中央は父巖さん、同左は母理恵さん、同右は地元後援会の金田光生会長=27日午後5時20分ごろ、宇土市の市民体育館ecowin宇土アリーナ

前夜は眠れなかったという父巖さん(60)は「よくやった。誇らしい。今夜は良い酒が飲める」とこぼれんばかりの笑顔に。祈るように見守った母理恵さん(56)は、花道で涙ぐむ息子の姿にもらい泣きした。賜杯を抱く雄姿を目にすると「皆さんの応援があっての優勝。あそこにいるなんて信じられない」と感極まっていた。

正代の新入幕は16年初場所。その4月の熊本地震を機に、被災者の希望となるよう5月の夏場所以降、白星のたびに花火を打ち上げてきた後援会の金田光生会長(68)は「感無量。ここまで来たら頂点に立ち、県民に夢を届けてほしい」と綱とりを期待。忘れられない記念日となった夜、これまでで一番多い20発が古里を彩った。

正代の初優勝を祝い、地元宇土市の夜空を彩った花火=9月27日午後7時ごろ

熊日は号外発行 豪雨被災者「元気もらった」

正代の優勝決定を受けて熊日は故郷の宇土市や熊本市で号外250部を発行した。

正代の初優勝を伝える号外を読む相撲ファンの男性=9月27日、熊本市中央区

新市街アーケードの家電量販店のテレビ前には人だかりができ、正代が優勝を決めた瞬間、大歓声に包まれた。八代市坂本町の豪雨被災者が避難する市総合体育館トヨオカ地建アリーナで、テレビ観戦した男性(72)=同町=は「自宅が全壊し、希望も何もなかったが、自分も一発逆転頑張ろうと元気をもらった。これで長生きできる」と笑顔だった。

 

優勝後のインタビューでは「地元のたくさんの方の応援が力になった」と語った正代関。その恩にこれ以上ない形で報い、故郷を勇気づけるビッグなプレゼントを届けてくれました。熊本県出身力士としては栃光以来58年ぶり7人目の大関昇進は確実な情勢。11月に29歳になる正代関ですが、その覚醒ぶりを見ると、まだまだ伸びしろが期待できそうです。

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