
「農家に寄り添い、お手伝いを」 飼料の卸問屋「黒瀬商店」、6代目の思い
ぶらり新町・古町

飼料の卸問屋、黒瀬商店。会社は細工町通りにある=熊本市中央区
熊本市の新町・古町をぶらぶらと歩く。「畜産農家に寄り添って、おいしいお肉や卵の生産をお手伝いしたい」「地域のために尽くしたい」。飼料の卸問屋、黒瀬商店(熊本市中央区細工町)の6代目になる黒瀬潔さん(40)の思いは簡潔だ。
顧客はこだわりの畜産農家

黒瀬商店の6代目、黒瀬潔さん。手に持つのはオリジナル商品「彩どり」
「これは放し飼いの地鶏用に開発した飼料です」。黒瀬さんはオリジナル商品「彩どり」の20キロの袋を軽々と上げて見せてくれた。
黒瀬商店の主な顧客はこだわりの畜産農家だ。「選りすぐりの餌を使って、良質な畜産物を消費者に提供したい」。そんな思いに応えようと開発した。黄身の色を濃く、味を濃厚にするためにパプリカの粉末を配合してある。鶏が餌を食べた後の消化をよくするためにビール酵母を配合。ミネラルが豊富な海藻も入っている。
取れたての卵を頂くことになった。赤玉のMサイズを割る。ぷりぷりの黄身。口に入れ飲んでみた。すっとした感じ。「自然で育った、昔ながらの卵だ」と感じた。続いて母の玲子さん(67)が、ご飯まで持ってきてくれた。卵を割って、卵かけご飯に。こちらも食べやすく一気に平らげた。

黒瀬商店の飼料で生産された卵。生で飲んでもよし、卵かけご飯もよし
もともとは米問屋。「より安定的な経営ができる」と徐々に業態が変わり、飼料卸に落ち着いた。
もちろん、リスクがないわけではない。BSEや口蹄疫(こうていえき)、鳥インフルエンザ。家畜の病気が発生すれば、需要が落ち込む。今回の新型コロナウイルスでも影響が出た。飲食店の売り上げが減り、畜産農家の出荷減につながった。当然、扱う飼料の量が減る。
由緒ある大正時代の町屋 代々この地で

倉庫の天井、はりも貴重な木材を使っているそうだ
この日、黒瀬さんは郊外にある自社倉庫、飼料メーカー、御船町にある顧客の馬牧場を回って、夕方細工町に長靴姿で戻ってきた。
「太っているか」「カロリーは適正か」「タンパク質が必要ではないか」。生産者の声を聞き、メーカーにつなぐ。農協や商社といったライバルに負けていられない。
飼料を農家に届けることだけを考えれば、本社は郊外に構えたほうが楽だ。しかし、黒瀬さんは本社を移転する気はない。
「代々この地でやってきた。正直、熊本地震が起きる前は移転も考えた。でも地震で自宅が全壊し、由緒ある大正時代の町屋に住んでいることが(いかに素晴らしいことか)よく分かった。地域との結びつきも強くなった」
自宅はようやく修復した。入り口は狭く、奥に長細く続く町屋は、トガ、コクタン、マツ、ケヤキ、ヒノキといった多彩な木材を活用した歴史的な建築物と評価されている。

多彩な木材を活用した自宅。建物は本当に長細かった
前に進みつつ足元もしっかり 先達の思い胸に経営

仲の良いファミリー
自宅には祖母、父、母、妻、子4人。4世代9人家族で住む。子どもたちの声がいつも聞こえて、にぎやかだ。潔さんは「地域に貢献したい」と、五福小のPTAやスポーツ大会に積極的に参加している。
4代目が残した社訓には「前三後一の精神」と記されている。5代目の父雅之さん(69)は「会社は存続してこそ意味がある。自分の努力で社会に貢献してほしい」と話す。大きく前に進みつつも、足元を見つめなおす。先達の思いを胸に潔さんは会社を経営する。

社訓を手にする黒瀬潔さん
黒瀬商店
住所 | 熊本市中央区細工町3丁目18 |
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アクセス | 熊本市電「呉服町」電停より徒歩4分 |
電話 | 096-324-1811 |
※情報は2020年11月20日時点です。