
熊本地震で全壊の町屋、島田美術館で復元展示 「森本襖表具材料店」
ぶらり新町・古町
熊本市の新町・古町をぶらぶらと歩く。折りたたみ式の縁台、くぐり戸。森本襖(ふすま)表具材料店(熊本市中央区鍛冶屋町)の歴史的な町屋は熊本地震(2016年)でいったん解体となった後、島田美術館(同市西区島崎)で復元展示されている。
「なぜここに?」 違和感がカギ

島田美術館別館に復元された町屋
島田美術館を別の取材で訪れた際、別館の一角に納まった町屋に出くわして、驚いた。清川真潮事務局長は「美術館内に復元展示し、講演会や作品展示の会場としても使っています。なぜここに?という違和感がカギ。この建物に関心がわき、この場所に存在することにそれぞれが思いを巡らすことができる」と語る。
1886(明治19)年に建てられた店舗兼住居の1階の一部が再現されている。幅6メートル、高さ3メートル、奥行き5メートル。
折りたたみ式縁台、出し入れできる建具 空間を効率的に使う知恵
折りたたみ式の縁台は「ばったり床几(しょうぎ)」と呼ばれる。商品を並べて商談したりした。ケヤキ板1枚でつくられた大きな看板も構えている。
正面の建具はすべて出し入れできる。間口が狭く、奥行きがウナギの寝床のように長く、空間を効率的に使う知恵だったようだ。
2001年には熊本市の景観形成建造物に指定されたが、熊本地震で全壊に。17年に解体した。島田美術館が瓦や柱などを引き取った。地元のボランティアが復元を進めて、19年4月に復元できた。
正面の踏み石を越え、くぐり戸から入る。柱や梁(はり)はスギ材。床几は軸部分がクスノキ、枠の一部がトガ(ツガ)。木々に囲まれ、ほっとする。
表彰状や絵画の修復作業も

商標
現在は社名を「もりもと」に変更。6代目の森本多代さんによると、敷地は奥行きが50メートルほどあり、建物には階段が三つあった。部屋は薄暗く、天井は真っ黒。近所の子どもたちが肝試しをしたり、鬼ごっこをしたり。にぎやかだった。ばったり床几では、ご老人らが将棋を指し、夕涼みをした。
マンションが増え、洋室が幅を利かし、襖の需要は減っている。それでも、木枠にお気に入りの和紙を貼りたいという顧客はいる。
取材の日、森本さんは、熊本豪雨で被災した人吉市の商店から持ち込まれた表彰状や絵画の修復作業に当たっていた。「腕がいいと評判で、頼んだ。家にとっては大事な賞状ですので」と依頼主は話した。

賞状の修復作業
店は近くに引っ越し 昔の記憶は美術館に

いまの鍛冶屋町。マンション建築現場にもともとの母屋があった。隣の駐車場の先に、自宅兼作業場を建て直した
元々、建物があったところは、現在ホテルを建築中。店は近くに引っ越して営業を続けている。
森本さんの母親はSF作家で、育児の合間を縫って母屋で小説を書いたそうだ。建物の中に家族がいて、お客さんが来て、子どもたちが遊ぶ。そんな記憶を残す町屋が美術館で保存されている。
島田美術館
住所 | 熊本市西区島崎4-5-28 |
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アクセス | 熊本市電「段山町」電停より徒歩15分 |
開館時間 | 10時~17時(入場は16時半まで) |
休館日 | 火曜(ただし祝祭日の場合は開館) 年末年始 展示替え、館の都合により休館することもあります |
電話 | 096-352-4597 |
公式HP | http://www.shimada-museum.net/ |
※情報は2020年11月27日時点です。