バーテンダー「夜話」 銀杏中通り「ステイツ」編 男に必要なのは「愛」「曲折」「経験」

バーテンダー「夜話」 銀杏中通り「ステイツ」編 男に必要なのは「愛」「曲折」「経験」

「世の中の表裏を知りたければ、バーテンダーになればいい」。そんな格言があるそうです-。熊本市のバーテンダーたちの「ちょっといい話、クスッとする話」と、それにまつわるお酒とともに紹介します。

熊本日日新聞夕刊の人気連載だった「夜話(やわ) カクテル」(2015年3月~2017年6月)を再構成し、バーテンダーさんへのインタビューやお店に関する情報などを加えました。今回は、「バー・ステイツ」(熊本市中央区花畑町、銀杏中通り)オーナーの宮本真さんに登場してもらいます。

宮本真さん

「バー・ステイツ」オーナーの宮本真さん

(記事中の情報は掲載時点、後段の店舗情報は2019年2月5日時点です。変更される場合がありますので来店前に電話でご確認ください)

世界に認められた初の「日本カクテル」

1杯目 マウント・フジ

マウント・フジ

マウント・フジ

ある年の元日。常連の70代男性が最初の客として来店されました。カウンターの定位置に座られると、「おめでとう、マスター。きょうは『マウント・フジ』からいこうかな」と注文され、その年の1杯目をお出ししました。

ベルモットルージュに、ホワイトラム、レモンジュース、オレンジビターズを加えたカクテル。1939年にスペイン・マドリードで開催された「万国カクテルコンクール」で日本人バーテンダーが作って佳作1等。世界に認められた初の日本カクテルかもしれません。味も色も派手さはないのですが、奥ゆかしい霊峰・富士山を思わせる風情。味もお屠蘇[とそ]に似ています。

ふだん注文されないので理由を尋ねてみると、「夢を見ないたちなので、飲んでやるんだよ」と。「あっ、一富士[いちふじ]、二鷹[にたか]、三茄子[さんなすび]ですね」と切り返すと、満足そうな表情をされました。おいしそうに飲みながら、縁起のよい初夢を見ていらっしゃるかのように…。

(2016年1月5日掲載)

感性鋭い常連客と考えたオリジナルカクテル

2杯目 未完成

未完成

未完成

私の店には、開店以来の男性常連客と2人で考えた「未完成」という、オンザロックスタイルのオリジナルカクテルがあります。

なぜ未完成かというと、レシピで決まっているのは、アマレットという杏仁[あんにん](アンズの種の核)を使った甘い香りのリキュールだけ。あとはカンパリなど苦味のある酒と樽[たる]熟成された蒸留酒を入れ、最後にレモンで香り付けするというのがルール。

基本的にはその男性にしかお出ししないカクテルなので、苦味ある酒と蒸留酒は、その日の「おれを見て決めて」ということにしています。男性いわく「この三つの酒は人生に欠かせないものの象徴」だそうです。アマレットの別名は「愛の酒」。苦味ある酒は「曲折」。熟成蒸留酒は「経験」…。

男性はプロの写真家で感性は極めて鋭い方。私の酒の選択に満足していただくことが多くなりましたが、いまだにお作りするたびに緊張しっぱなしです。私自身の「未完成」を痛感しています。

(2016年1月12日掲載)

ショウガのパワーで風邪予防

3杯目 モスコーミュール

モスコーミュール

モスコーミュール

肌寒い日が多くなり、風邪に気を付けたい…。そんな時季になると思い浮かぶ女性のお客さまがいらっしゃいます。50代の看護師さんで、風邪をひきそうになると、ある特製カクテルで“予防”されていました。

それは「モスコーミュール」。ウオツカベースの有名なカクテルなので、ご存じの方も多いと思います。本来はショウガ風味の炭酸飲料「ジンジャービアー」を入れるのですが、私の店では皮付きのショウガをすりおろし、ウオツカに漬け込んでこした汁に大きめにカットしたライムとジンジャーエールを加えます。

医療現場で働いている方にアドバイスをいただいて工夫しただけに、「効果てきめん」のようで、飲むと身も心も温まるような気がします。

ちなみに女性は四国出身。赴任当初は、患者さんの熊本弁が分からずに困っておられたので、こちらの方は私がしっかりアドバイスさせていただきました。

(2016年1月19日掲載)

持つべきは女性バーテンダーの妻

4杯目 ホット・ドランブイ・タディ

ホット・ドランブイ・タディ

ホット・ドランブイ・タディ

最後は、私の店にいた女性バーテンダーのことを話しましょう。とても頑張り屋で、休日になるとカクテルを勉強するため、店に客として来たり、ほかのバーへ飲みに行ったりするような人でした。

あの夜も彼女は客として私の店にやって来ました。カウンターでは私の友人が1人で飲んでいて、彼女がたまたま隣り合わせに座りました。杯を重ねるごとに話が弾み、二人は意気投合し、ほどなく河岸を変えるべく店を後に。数カ月後、何とその二人から「結婚します」との報告を受けたのです。

結婚後しばらくして友人が1人で店に寄った時、私にのろけてくれました。「夜、彼女が作るホット・ドランブイ・タディを飲むと、心が安らいで体調も良くなるんだよね」と、でれでれ口調でね。

このカクテルは名優ハンフリー・ボガードが愛飲したというハチミツ入りのリキュール「ドランブイ」がベース。こんなカクテルが一般家庭で出るなんて。持つべきは女性バーテンダーの妻なのかもしれません。

(2016年1月26日掲載)

こだわりの道具 シェリー酒用ひしゃく 長い柄しならせグラスへ

ベネンシアを操る宮本真さん=2017年8月撮影、熊本市

長さ1メートルほどのひしゃくの先端に付いた細長いカップにシェリー酒を入れ、柄をしならせてグラスに注ぐ。「ベネンシア」と呼ばれる道具です。スペインのシェリー酒の蔵元が、買い付けに来た英国の業者に、この道具を使ってたるから酒をくみ味見させ、契約を取り付けていたそうです。

「グラスにそそぐ時、空気が混ざり酒がまろやかでおいしくなるんです。スペイン語の『合意』が名前の語源です」と宮本真さんが教えてくれました。

宮本さんは、2002年に国内で初めてあった資格認定試験で、九州からただ一人合格したベネンシアを操る「ベネンシアドール」です。実技のほかに酒の歴史や製法を問う試験があるため、「シェリー酒を知る良いきっかけ」と受験を決意。実技を撮った海外のビデオなどを見ながら独学で半年間練習したそうです。

宮本さんにインタビュー 「カクテル名を知らなくても心配しないで」

「バー・ステイツ」で、宮本真さんに、熊日紙面に登場した反響などを聞きました(2019年1月21日)。

――熊日夕刊「夜話カクテル」に登場して、反響がありましたか?

宮本さん 「新聞で紹介したカクテル作ってよ」と言われることがよくありました。特に人気だったのが「未完成」。完成形じゃないという点が魅力のようで、新聞掲載から3年たった今でも注文が続いています。

――店名の由来を教えてください

宮本さん 両親が山口県岩国で経営していたバーに関係しています。その店は米軍基地の近くにあり、お客は米兵ばかりでした。音楽に、酒に、望郷の堪えざる思いに酔ってしまった若い将校の心のつぶやきが、今の「Bar States」の店名の由来です。「I wanna go back to states」~故郷(くに)へ帰りたい。

「バー・ステイツ」の入り口

――「バー・ステイツ」は、どんなお店ですか?

宮本さん 初めての方、お一人の方も気軽に楽しんでいただける店です。いろいろな種類のシェリーを、手ごろな値段でご提供しているのも特徴でしょうか。アップルパイ、プレーンオムレツ、ナチュラルチーズ盛り合わせなど、フードメニューも充実しています。

それと大切にしているのが掃除です。私もスタッフも毎日、店の隅々をきれいにするよう心掛けています。店内の掃除が行き届いていないと、なんか気になって、お客さまと向き合うことに集中できないんですよ。

「ステイツ」店内に並べられたシェリー酒の瓶

――「バー」に詳しくない方に楽しみ方のアドバイスを

宮本さん バーに行って、カクテル名でオーダーする必要はありません。良いバーテンダーはお客さまをよく理解しようと必死です。(アルコールの)強さ、時季のフルーツを使うかどうか、甘味・酸味、喉でゴクゴクと飲みたいか、ゆっくりグラスを傾けたい気分か…。情報をたくさんバーテンダーに与えてください。おいしいカクテルをご準備いたします。

「バー・ステイツ」店舗情報

住所 熊本市中央区花畑町13-23、クボタビル4階

アクセス 熊本交通センターバス停または熊本市電・辛島町電停から徒歩3分
銀杏中通り、三和パーキング(立体駐車場)向かいのビル
営業時間 18時~26時(ラストオーダー25時)
定休日 日曜
電話 096-324-9778
システム カクテル800円~、チャージ料金なし(税別)
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