熊本市中央区新町の老舗「兵庫屋本店」 武士から商人…みそ・しょうゆ造りへ

熊本市中央区新町の老舗「兵庫屋本店」 武士から商人…みそ・しょうゆ造りへ

熊本の街の移り変わりを、昔から見つめ続けてきた老舗。店と街の歴史、代々伝わる商売の心得や新たな挑戦について、みそ・しょうゆの製造販売「兵庫屋本店」(熊本市中央区新町)を経営する渡邊醤油(しょうゆ)の社長、渡邊稔晃(としあき)さん(54)に語ってもらいました。

※2019年5月21日付熊本日日新聞夕刊掲載。情報は掲載日時点のものです。

創業300周年、15代目の渡邊さん

渡辺さん

「小回りを利かせて、お客さんの顔が見える商売をやっています」と話す兵庫屋本店第15代店主の渡邊稔晃さん=中央区新町の同店

「兵庫屋本店」は4年前に創業300周年。渡邊さんは創業者から15代目の子孫に当たります。

先祖は加藤清正の家臣として播磨(はりま)(現在の兵庫県)から肥後に移住。その子孫の渡邊祐甫(ゆうほ)が武士から商人に転じ、1715(正徳5)年に現在地で質屋を創業しました。

すでに加藤氏は改易されており、当時の藩主は細川氏。「臆測ですけど、主君が変わったことで武士としての将来を考え、転職したんじゃないでしょうか」と渡邊さんは話します。

れんが造りの麹室を歴史資料館に

代々質屋を続ける中で、質流れになった桶(おけ)や樽(たる)を活用しようと酒造業を始めました。昔、新町の地下水は美味と評判で、同店では赤酒などを造っていました。明治の初めごろにみそ・しょうゆ製造業に転じ、熊本城一帯に進出した陸軍の御用達にもなったそうです。

西南戦争(1877年)で店舗が焼失しましたが、河内にあった庄屋の建物を移築するなどして商売を再開。同時期に建てた店舗兼工場で今も営業しています。内部にあるれんが造りの麹室[こうじむろ]は、2002年から歴史資料館として一般公開しています。

歴史資料館

兵庫屋本店の古い麹室を活用した歴史資料館。れんがの壁は発酵に適した温度を保つため二重に造られ、間にはもみ殻が詰められているという

創業時から代々の主人は「渡邊十兵衛」を襲名してきましたが、渡邊さんは本名のまま。子どもの頃、父親が古風な名前を名乗っていたことで友達にいじめられました。そんな体験もあったせいか、もともと店を継ぐことに積極的ではなかったそうです。

渡邊さんは大学卒業後、福岡の総合商社に就職。「仕事はきつかったけど、自分にはサラリーマンが向いてると思ってました」。そんな中で父親が病死。渡邊さんは入社3年足らずで退社し、家業を継ぐことになりました。

理由は、父親の死後も商売を続けていた母節子さん(84)の「稔晃が後を継がないなら店をやめる」という言葉。「自分のせいで無くなるのは後味が悪い。先祖から恨まれるのも嫌だと思って戻ってきたんです」

当時の売り上げは、父親の生前に比べ半減していました。渡邊さんは従業員にしょうゆ造りを習い、いったん離れた顧客を取り戻そうと奔走。戻ってくれた顧客とは今でも取引が続いています。

「兵庫屋の味を気に入って、ずっと取っていただいている所がほとんど。お客さんに支えられて今までやってこられた」と渡邊さんは感謝を口にします。

江戸・明治期の帳簿類

歴史資料館に展示されている江戸・明治期の帳簿類

オリジナルブレンド 直販でニーズを把握

兵庫屋本店の商品はどこで買えますか?という質問に、渡邊稔晃さんの答えは「ここです」。卸売りはせず、同店の店頭と配達による直販を行っています。地元の旧町名を冠した刺し身しょうゆ「蔚山(うるさん)」など、知る人ぞ知る商品が並びます。

しょうゆ
同店では明治期からみそ・しょうゆを醸造してきましたが、現在、みそは製造委託したものを販売。しょうゆも原材料から仕込むのではなく、醸造された半製品を仕入れ、自社工場で調合・火入れすることで独自の味を作りだしています。

個人の顧客もいますが、多くは飲食店などの業務用。かつては新町に立ち並ぶ料亭各店の注文を受けていたそうです。「味にうるさい板前さんが多かったもんですから、怒られながらも愛用していただいてました」と渡邊さん。

その店だけの“オリジナルブレンド”のしょうゆを作ることも。コストはかかっても長く使ってもらえるそうです。「どこがどんなしょうゆを使っているか、だいたい把握してます。売り上げを落とさないために、要望に応えていかないとですね」

兵庫屋本店のあゆみ

1715(正徳5)年 渡邊祐甫(初代渡邊十兵衛)が武士から商人に転じ、質屋を創業兵庫屋本店ののれん
1588年 加藤清正が肥後北半国の領主となる
1632年 加藤家改易。細川忠利が熊本藩主となる
1868年 明治政府が成立
1871年 陸軍の鎮西鎮台が熊本に設置される(2年後に熊本鎮台と改称)
1877年 2月、西南戦争で熊本市街の多くが焼失。兵庫屋本店も被災し、店舗を再建(現在の店舗はその一部)電車通りに立っていた兵庫屋本店の旧店舗
1915年 「パナマ運河開通記念博覧会」にみそ・しょうゆを出品。表彰状を贈られるパナマ運河開通記念展覧会にみそ・しょうゆを出品して贈られた表彰状

店舗情報

住所 熊本市中央区新町3丁目4−2

アクセス 熊本市電「蔚山町」電停から徒歩1分
電話 096-352-0280
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