前を向ける「居場所」を ひとり親家庭の子どもら支援 NPO法人理事長・渡剛さん

前を向ける「居場所」を ひとり親家庭の子どもら支援 NPO法人理事長・渡剛さん

【令和に咲く】新時代担う若者に同世代の記者がインタビュー

カードゲームを楽しむ渡剛さん

授業前に塾生らとカードゲームを楽しむ渡剛さん(中央)=大阪府箕面市

熊本日日新聞社の「平成生まれ」の記者たちが、IT業界やアート、音楽など、さまざまな分野で挑戦を続ける、熊本県出身や在住の同世代の若者を取り上げる連載「令和に咲く」。

今回は、熊本市出身で大阪府箕面市のNPO法人理事長の渡剛さん(30)を取材しました。記事と写真は社会部の前田晃志(29)が担当しました。

「自分より苦しい子がいる」 大学3年で団体設立

塾生に数学を教える渡剛さん

「この夏で分数嫌いを克服しよう」。8月上旬、大阪府箕面市の住宅街にあるビルの一室。ひとり親家庭の子どもらの学習支援を手掛けるNPO法人「あっとすくーる」が運営する塾で、理事長の渡さん(30)が中学1年の女子生徒に優しく語りかけた。渡さんの解説で計算問題が解けると「やったね」と手をたたいて喜び合った。

母子家庭で育った。家計を担う母は正社員だったが、中学2年の時、状況が一変した。祖母の介護で思うように仕事ができなくなり収入が激減。兄がヤミ金融から借金し、厳しい取り立てに追われた。高校入学後も苦しい生活が続き、大学進学を諦めかけた。頑張っても報われない現実に悩み、母に「死にたい」と打ち明けるまで追い詰められた。

高校3年の時、実の父が亡くなり、思わぬ遺産で大阪大に進学できた。子どもの貧困問題の講義を聴き、「自分より苦しい子がたくさんいる。貧困の連鎖を断ち切るために何かできないか」-。ビジネスプランコンペで学習塾の着想を得て、2010年に大学3年で団体を設立した。

社会全体で子ども支える環境を広めたい

事務所

NPO法人あっとすくーるの事務所

現在は、ひとり親家庭の子どもを低料金で指導する塾を運営し、不登校生の支援事業も地元自治体から受託する。虐待を受けるなど深刻な状況の子もおり、講師の学生ボランティア約70人と協力し、一人一人と真剣に向き合う。

「どんな家に生まれても将来を諦めず、前向きに生きられる場所をつくりたい」。深夜まで働く親もいるため、授業がない日でも自習や遊びで塾に来る子もいる。漫画やカードゲームも置き、「第二の家」として温かく迎え入れる。

塾

NPO法人あっとすくーるが運営する塾

団体設立から10年目。ボランティアとして活動する元塾生もおり、支えられる側が支える側に成長する「支え合いの循環」が生まれてきた。「社会全体で子どもを支え、育てる環境を日本全国に広めていきたい」。優しいまなざしの奥に強い意志が宿る。

(2019年8月16日付 熊本日日新聞朝刊掲載)

渡剛(わたり・つよし) 略歴

1989(平成元)年生まれ。済々黌高、大阪大外国語学部卒。小学生時代の担任に憧れ、大学入学時までは教師を目指していた。趣味は邦楽ロック鑑賞で、フェスやライブにも足を運ぶ。

〈取材を終えて〉 子どもたちの居場所、守り続けてほしい

前田晃志記者

渡剛さん(左)を取材する前田晃志記者

子どもたちは授業の1時間以上前から続々と集まり、自習や遊びなど思い思いに過ごしていた。講師と塾生はきょうだいのように話し、アットホームな雰囲気が教室を包む。厳しい境遇の子もいたが、みんな目が輝いていた。渡さん自身がつらい思いをしてきたからこそ、親身になって寄り添えるのだろう。

昨年6月の大阪府北部地震では、同府高槻市の塾が被災した。テナントとして入る建物の天井に亀裂が入り、外壁や柱も損傷。「団体創設以来、最大の危機」(渡さん)だったが、インターネットで資金を募るクラウドファンディングを始めたところ、約1カ月で目標を上回る1547万円が全国の671人から集まった。支援金は新しい教室の契約費用などにあて、9月に塾を再開した。

塾再開までの約3カ月間、同市内の飲食店の一角を無償で提供してもらい、授業は継続できた。渡さんは「こんなに多くの人から応援してもらっていると分かり自信になったし、勇気をもらえた」と感謝する。塾生確保や財政面など課題もあるが、子どもたちの居場所をこれからも守り続け、活動を広めてほしい。(前田晃志)

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